アメとムチはいずれ効かなくなる理由
「アメとムチの理論」は世間一般で広く受け入れられています。しかし、実際はアメとムチの理論は成長にとってむしろ害であることが知られています。それでもなお、アメとムチの理論が語られるのには訳があります。アメとムチを使う側にメリットがあるからです。アメとムチで飼いならすことによって、自分への依存度を高め、かつ離反や謀反を起こすリスクを抑えるためです。飼いならされ、従順であればあるほど、アメとムチを使う側にとって都合がいいのです。ただし、その効果はアメとムチが効いている間だけということを忘れてはなりません。
組織が大きく変わる「最高の報酬」 トータル・リワードを活用した行動科学マネジメント
- 作者: 石田淳
- 出版社/メーカー: 日本能率協会マネジメントセンター
- 発売日: 2009/07/26
- メディア: 単行本
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1 アメとムチが効かなくなるわけ
アメとムチ理論は基本的に自主性を奪います。どんなに自分を律することができる人でも何十年も飼い慣らされれば自律心は失われます。自律心を失えば、想像力は失われ、本当に言われたとおりのことしか出来なくなるのです。絵を描く人もアメを貰い、ムチを打たれれば、その絵はだんだんとアメとムチを使う人の好むものしか描かなくなります。それは踊りにしても、音楽にしても、そして仕事においても同様です。長い間、アメとムチに晒されれたサラリーマンは、アメとムチが課す課題のみにしか対応できなくなり、パフォーマンスもアメとムチに依存するようになるのです。
2 アメとムチに変わるもの
アメとムチは統制を取る上で、見かけ上は簡単な方法に見えます。しかし、作為的に主体性を奪う行為には限界があります。行動をさせるために常に報酬や罰を与え続けるには無理があるのです。アメになる資本必要ですし、ムチを振るう精神的、物理的な体力も必要なのです。最低限の範囲内でしか行動しない人たちを動かすために非生産的なところに膨大な無駄が生じることはどこかの国が教えてくれる教訓です。アメとムチでは、パフォーマンスに限界があるのです。アメとムチの変わりになるもの、それは自主自律を促す主体性に他ならないのです。
3 考えるべきは主体性を最大発揮できる場所
整えるべきは主体性が制限無く発揮できる環境です。それぞれが興味を持ったことを加速させる環境を整え、抵抗無しにアウトプットできる環境が維持することです。そうすれば、それぞれの主体性は、それぞれのペースで伸び始めます。自己満足で行動するなら、基本的に強制力や報酬も必要ありません。あえてするとしたら共感や賞賛することくらいです。大切なのは推進力を失わせない環境です。創造的な仕事は、制限された中で生まれることはほとんどありません。自律的で主体的な偶然によって生まれてくるのを待つしかないのです。創造性を否定するアメとムチは、私達の暮らしを楽しくするイノベーションを阻害するだけなのだと思います。
自己に従順であることができないものは、他から命令される。
フリードリヒ・ニーチェ